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[milumo(みるも)コラム 業界コラム] [COLUMN Vol.01] メガネの価格が違う背景を考える

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- Writer Profile - ライター・プロフィール

西木 慶一郎
公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員。
株式会社ターンナップ代表取締役。
アナリスト時代は主に小売・流通案件をカバー。眼鏡関連銘柄のレポートは先見性に富み当時評判となった。現在は起業し、新たな分野でのイノベーションに挑む。
株式会社ターンナップ公式WEBサイト

選択肢が増えてきたメガネ業界

「えっ、メガネが1万円もしない?それもレンズ代込みで?」
10数年前には思いもよらなかった状況に、今なっています。

思い起こせば、私は約15年前、小学5年生の時にメガネデビューしました。
視力検査の結果を家に持ち帰った時、母親の表情が一瞬曇ったことは今でも忘れません(笑)

小学生用とはいえ、当時は最低でも3万円くらいしていましたので、無理もないですよね。
「あぁ…」と言われながらも、結局は必要経費ということで買ってもらいました。

 私としては、知的に見える(と思っていた)アイテムが手に入りましたし、席替えのハンデもなくなって、めちゃめちゃ嬉しかったですが…。
(※ちなみに、ちょうどメガネをかけた「名探偵」のアニメ放送が始まった頃でしたので、クラスメイトの一部からは3文字のあだ名で呼ばれました。ただ、高校生になった時に、あだ名が4文字になることはありませんでした。無念です。)

 こうして、「メガネ=3万円」という式が頭の中に刷り込まれ、それからしばらくは買い替えの都度3万円で新調していました。しかし、段々と状況が変わっていったのです。

 まずは、高校時代(2000年頃)、1万円くらいのメガネが世の中に登場しました。当時、まだまだ視力は落ち続けていましたので、頻繁に新調するにはちょうどいい価格でした。
ただ、若干かけ心地は悪かったですし、今思うとレンズに追加料金も発生していました。
(当時はどこの店でもレンズの種類ごとに追加料金が発生していましたので、不思議には思いませんでした。)

それが、大学時代(2000年代半ば)には2万円くらいで、それなりにしっかりしたフレームとなり、レンズはどれを選んでも追加料金なし、という店が登場し始めました。
最近では1万円以下で、レンズの追加料金不要という店も登場しているようですね。
こうした動きは、単純に「価格破壊が生じている」というだけでなく、「お客さんの選択肢が増えた」とも私は捉えています。私自身、1万円以下のメガネをかけることもあれば、学生時代に頑張って買った10万円のメガネをかけることもあります。
3万円以上で「しか」買えなかった頃と比べると、時代が進んでいるなと感じています。

老舗メガネ屋の主張:「そんなに安く売れない」

 今でも老舗のメガネ屋では、一式で3万円以上するところが多いです。
そもそも、なぜなのでしょうか。
どんな業界でも、お客さんは安く買いたいですし、お店側は高く売りたいものです。
しかし、メガネ業界はこの溝が特に大きいように私は感じます。

まずはお店側の主張から。
メガネ業界には「半医半商」という言葉があります。
メガネ屋の仕事には、もちろん営利目的としての「商売」という性格もありながら、
視力矯正・補正等の点で「医療」に近い性格もあるということです。
メガネ屋は店の運営を考えつつ、お客さんごとの眼の特性やライフスタイルに応じた商品(特にレンズ)を提供しているのです。

「そんなこと…。今は機械で簡単に視力(度数)が測れる!」と思いがちですが、実は、この「医療」という側面は、視力(度数)だけの問題ではないのです。
(ちなみに、メガネ業界では、通常私たち消費者が使う「視力」という表現は、あまり使用しないようです。近視や遠視・乱視を表す「度数」という表現が使われるみたいです。なぜなら、彼らメガネ屋スタッフの皆さんは、同じ視力0,7でも、近視なのか遠視なのか、あるいは乱視が絡んでいるのか・・・など、度数による判断で視力を考えているからです。こういった部分からも、素人では難しい知識や経験が必要な側面が多い、「半医半商」たる業界と言えます。)

例えば、レンズのゆがみのことを挙げてみます。
メガネをかけると、目の前にレンズという「異物」を置くわけですから、光はガラスやプラスティックに邪魔をされてしまいます。すると、本来裸眼ではくっきり見えるはずの物が、度数を矯正してもレンズの屈折の分だけ、若干ゆがんで見えてしまうことがあります。
もし、メガネを買いに来た人が車を運転する人だったらどうでしょうか。

極端な例かもしれませんが、度数の設定やメガネレンズを光学的に正確に作成しておかないと、自分に合わないメガネとなってしまい、一瞬の判断に影響が出るかもしれません。
また、メガネフレームの調整も忘れてはいけません。メガネをかけたときに、レンズの中心と自身の瞳の中心がきちんと重なるようにかけておかないと、結局、物体がぼやけて見えてしまうことになりかねないのです。

だからこそ、そういったお金(=原価)の見えにくい知識や技術にも、こだわって経営をされている老舗のメガネ屋の価格は高くなってしまうのです。手間暇をかける必要があるため、それに見合った価格設定をしないと店が成り立たなくなるのです。 お客さんが思っている以上に、メガネは繊細で奥深い商品なのです。

レンズの価格はわかりにくい

しかし、そういうことは残念ながらお客さんには伝わりにくいものです。
安売りメガネの勢いが増していることが、その証拠かもしれません。
ポイントは「レンズ価格の納得性」にあると、私は考えています。

ご存じの通り、メガネはフレームとレンズの組み合わせでできています。
その内、フレームは納得して買うことができるパーツではないでしょうか。

なぜなら、「値札を見て、自分で決められる」からです。どこのメガネ屋でもフレームには値札が付いていますので、財布の中身と相談しながら、気に入ればレジに行き、嫌なら棚に戻せばいい、というだけの話です。最近では老舗のメガネ屋でも比較的低価格のフレームを置いていますので、お客さんの選択肢・選択権は十分にあると思います。

一方のレンズ。はっきり言って、お客さんに種類・価格の選択権がありません。 きちんとお店側が眼のことを考えてくれていても、視力検査の結果から強制的に決められている感は拭えません。時には、「通常レンズは分厚くて見栄えが悪い」と言われ、気付いたら薄いレンズにさせられていた、という経験がある人も少なくないと思います。

「安いレンズにしたって、ちゃんと遠くまで見えるのに…。」と内心思っていても、それを理由に交換を迫るのも、気が引けてしまいます。

「生活に支障がない範囲でちゃんと物が見えるのであれば安いレンズでいい」、
「高いレンズって本当に価格に見合った価値がある?」というのが、眼鏡レンズについてお客さんの抱く率直な感想なのではないでしょうか。

だからこそ、オプションレンズの追加料金をなくし、かつ低価格でメガネを提供している店の人気が高まっているのだと思います。また、デフレという経済環境の下では、お客さんは「とにかく低価格で」とも思いたくなってきます。

安売りメガネを全否定するのもいけない

私は、安売りメガネも持っていますし、よく使ってもいます。
安売りメガネを手掛ける企業は、生産・販売体制を工夫した上で低価格で販売しています。私は、「安いから絶対に粗悪品」と判断してしまうのはいささか短絡的だと思っています。
まず、製販一体化。SPAと呼ばれるビジネスモデルです。

現在、一部の大手チェーン店では、自社でフレームの企画や生産まで行っています。工場や卸売業者の利益分を取り込むことができますので、それを元に価格を下げることができるのです。また、店での売れ行き状況がシステム管理で分かっていますので、流行を捉えた商品開発もでき、販売効率や生産効率も良くなります。(不良在庫が発生しにくくなる。)
レンズの調達についても工夫があります。

一般的に、仕入量が多いほど1つ当たりの仕入コストが下がることは、ビジネスの世界の常です。安売りメガネ屋では、仕入業者を集約したり、レンズの種類も集約することで、レンズの調達コストを下げているのです。必ずしも安いから粗悪なレンズを使っているわけではないということです。

老舗メガネ屋からすると、「安売りメガネはメガネではない」と言いたくなるかもしれません。しかし、少なくとも私は、安売りメガネでも生活に支障はありませんので、これはこれでアリだ、というように思っています。

価格が違う背景を踏まえて、メガネを買ってください

私からのメッセージは、「価格が違う背景を知った上で、メガネを買って欲しい」ということです。
消費者にとってメガネ購入の選択肢が増えたことは、一つのイノベーションだと思います。
そして、高いメガネには高いなりの理由がありますし、安いメガネだからといって粗悪品というわけではありません。それぞれの良し悪しと、価格とのバランスを考慮した上で、自分に合ったメガネを買ってもらえればそれでいいのではないでしょうか。

また販売者側については、安いメガネ、高いメガネ、双方についての、価格が違う“背景”をしっかり啓蒙していく責任があると感じます。

今、メガネ業界で主体的に情報を発信しているのは、安売りメガネチェーンだけと言っても過言ではありません。良くも悪くも情報が偏ってしまっているのです。
そもそも、「3万円のメガネが高いのか?」という部分で、メガネ業界自体が「高い」という答えを出してしまっているようにも感じます。

3万円のメガネ、5万円のメガネ、10万円のメガネ、…。それぞれについて、その原価が何なのか、付加価値が何なのか、これを消費者にしっかりと伝えていくことがまず第一歩であると思います。
ですから、老舗メガネ屋も“譲れない部分”を積極的に発信していけば、その“譲れないこだわり”を潜在的に欲している多くの消費者はしっかりと見極めてくれるはずです。

他の多くの産業がそうであるように。
何がいいものであるか、ということは後々判明することだと思います。


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