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[milumo(みるも)コラム 業界コラム] [COLUMN Vol.02] メガネ業界に見る経営理論「SPA型モデルの発展と、そこから学ぶべきこと」

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- Writer Profile - ライター・プロフィール

西木 慶一郎
公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員。
株式会社ターンナップ代表取締役。
アナリスト時代は主に小売・流通案件をカバー。眼鏡関連銘柄のレポートは先見性に富み当時評判となった。現在は起業し、新たな分野でのイノベーションに挑む。
株式会社ターンナップ公式WEBサイト

SPA化はマージンを取る(利益率を改善させる)ことだけが目的ではない

現在、様々な業界でSPA(※1)型モデルの企業が躍進しています。
SPAとは、商品の企画や生産までを自社で行う小売店のことで、日本語では「製造小売業」とも呼ばれます。生産部分は外注するケースもありますが、いわゆる川上から川下までを1社が担う「垂直統合」に該当します。

具体的には、衣料品での「ユニクロ」や、家具の「ニトリ」、靴の「ABCマート」などが代表例です。メガネ業界も例外ではなく、「J!NS」、「ZOFF」、「OWNDAYS」が代表的で、グループにメーカーを持つ「眼鏡市場」(※2)もSPA型のモデルに近いと言えるでしょう。

「垂直統合」というと「中抜き」という言葉が想起されやすいと思います。
小売業者の原価(=仕入れ値)を簡単に分解すると、

「原材料価格」+「メーカーの生産費用」+「メーカーの利幅」+「卸売業者の利幅」になります。

メーカーも「部品メーカー」と「完成品メーカー」に分かれていたり、卸売業者も「一次卸」、「二次卸」と多段階になっているケースもあります。

流通過程で多くの企業が関与するほど、各社の利幅(中間マージン)がどんどんと上乗せされるため、小売業者からすると非効率に見えてしまいます。

それであれば、自社で卸機能やメーカー機能まで担った方が、仕入値を低く抑えることができる、または中間マージンを自社内に取り込むことができるという、いわゆる「中抜き」という考え方が成立することになってしまいます。

しかし、SPA型モデルのポイントは、「利益率を改善させる」だけではないと私は思っています。それ以外にも様々な特徴があります。
※1 SPA: speciality store retailer of private label appare
※2 「眼鏡市場」を手掛けるメガネトップでは、仕入型PB商品も扱っている。

SPAは、「量」の問題を克服し「情報」を生かすビジネスモデル

 うまくビジネスが回っていることが前提ですが、SPAは「量」の問題を克服し、持っている「情報」を最大限に生かすモデルなのです。これは既存のビジネスモデルと比較すると、大きな進歩であり、他社にとっては大きな脅威であると私は思っています。

(1)「量の問題を克服する」について

 一般に流通構造が多段階(メーカー、卸、小売)になっている理由には、それぞれに独自の機能があるということに加えて、「量」の問題を上手く調整するということがあります。
通常、メーカーは、ある商材の「大量」生産に注力します。(多品種少量生産と言われる場合も、ある小売店の取扱量と比較すると多量です。)

 一方、小売店はたとえ専門店であったとしても、消費者の幅広いニーズに応えるために、多くの種類の商材を「少しずつ」店に並べます。取扱っている商品のメーカー数も1社ということはなく、多数のメーカー品を仕入れて販売します。
このように、あるメーカーとある小売店の間には「量」の面で大きな違いが生じているのです。これを上手く調整・配分する人が卸売業者です。いろいろなメーカーから多くの種類の商材を仕入れ、小口化して小売に納品するわけです。小売にとっては、メーカーとの直接取引と比べて在庫負担が軽減されます。

しかし、違う言い方をすると、「ある商材を大量販売できる小売業者は、メーカーと直接取引をしても十分にやっていける」ということです。流通構造上、「量」の調整という機能を小売側が担ってしまうのです。

さらには、小売業者がメーカー機能まで取り込んでしまうケースもあります。原材料調達や商品企画まで行うということです。この場合、小売業者は、メーカーの取引業者の1つという存在から、メーカーの(ほぼ)唯一の取引業者という存在になるのです。

そのため、仕入れた商品を売り切る力があるSPA企業は(競合などから見て)非常に脅威だと思います。「量」の問題をたった1社で解決してしまうのですから…。

(2)「情報を生かす」について

 商品という観点に注目すると、SPA企業は「売れ筋商品を自分たちで作れる小売業者」であると同時に、「売れ筋商品を肌身で知っているメーカー」なのです。これも非常に重要なポイントであると思います。

 私は、メーカーの業務について詳しい知識がありません。ご批判もあることを承知で(どの業界のことを指しているわけではなく、あくまで一般的な感想として)申しますが、各方面で話を聞く限りどうやら「日本のメーカーは自分たちの製品力を過信しすぎる」傾向があるようです。 すなわち「これだけいいものを作っているのだから、売れないはずがない」という発想です。場合によっては「売れないのは売り方が悪い、迷惑な話だ」とまで思っているメーカーもあるかもしれません。

 近頃、日本の大手電機メーカーは韓国勢に押されて業績不振にあえいでいます。この業界に限らず日本メーカーは「技術で勝って、事業・商売で負けた」等と言われます。すなわち、売り込むことに力を注いでいないというのが、世界から見た評価なのです。「商品(力)3割、売り方7割」という言葉は本当に意味深だと思います。

 また、「ガラパゴス」という言葉もあります。ガラパゴス諸島の独特な生態系になぞらえて、日本製品は独自進化しすぎてオーバースペック(機能・性能が過剰)である傾向が強いと言われています。恐ろしいことは、実はこれは国内消費者にとっても日本製品がオーバースペックになっているのではないか、という仮説です。メーカーが良かれと思って強化した機能が、かえって販売の足かせになっている可能性すら否定できないのです。

それに対し、SPA企業は、レジに打ち込んだ情報を基に現在の売れ行き商品や消費者の傾向を把握し、「売れる」物を作り、自分たちで直接売り込みます。かつ、1社の取り組みなので、いちいち契約書を発行する必要もなく、スピーディーに商品を企画し、生産し、販売することができるのです。自身が持つ「情報」という経営資源を最大限に生かすことができるのです。

「シンプルで選択肢が少ない」という観点も大事

 意外かもしれませんが、経営理論の世界では、「商品数は多ければいいというものではない」ということや、「スペック(商品の機能・性能)も高ければいいというものではない」という考え方があります。

(1)自由は不自由

「何が食べたい?」という質問をしたとき、一番困るのが「なんでもいい」ではないでしょうか。忙しいときには長期休暇が欲しいと思っていても、本当に長期休暇が取れてしまうと何をしていいのかわからず、結局無駄に過ごしてしまった、という経験をされた方も多いのではないでしょうか。不思議なもので、人間は自由にされるとかえって何もできない不自由さに直面してしまうという性質があるようです。

これは商品の購買行動の場面でも言えるようです。
コロンビア大学ビジネススクールの社会心理学者シーナ・アイエンガー教授の著書「選択の科学」によると、あるスーパーでジャムを6種類並べた時と、24種類並べたときとでは、6種類の時の方が売り上げはかなり(約10倍)よかったそうです。消費者は必ずしも多くの選択肢を求めているわけではないということです。

(2)「よりいい」が本当に「よりいい」とは限らない

「破壊的イノベーション」(※3)という言葉があります。商品の機能を過剰なまでに高めていくこと(持続的イノベーション)が常にいいとは限らず、時に消費者はシンプルな物を求めているケースすらあるのです。
 例えば、機能がどんどん付加されていく携帯電話に対し、通話とメール機能のみある携帯電話が破壊的イノベーションに該当します。

(この場合、破壊的イノベーションが優れていたとは言い難いですが)
なぜ、このお話をしたのか。それはメガネ業界におけるSPA型モデルの飛躍を上手く説明できるからです。
※3
持続的イノベーション:従来と同じ評価軸で製品の性能が上がること
破壊的イノベーション:従来の評価軸では「退化」だが、違う視点で製品がレベルアップすること
           余計な機能を一気にそぎ落とすことで、かえって使い勝手がよくなった、というようなケース
           (この場合、「機能の数」という点では大幅減だが、最終的な製品レベルが上がっている)

 アイテム数については、特に「J!NS」が好例だと思っています。「J!NS」は、かつては「多品種少量」を標榜していましたが、数年前から「少品種大量」に軌道修正しました。当時はフレームの「軽さ」という点に焦点を絞り、消費者に明快なメッセージを送ったことが、大きく飛躍するきっかけになりました。(現在では、機能性商品というカテゴリーも展開しています)
商品スペックについては、SPA型企業全般に言えると思います。私は破壊的イノベーションが起こっているのだと思っています。

 老舗メガネ屋の方曰く、「あんなもんメガネではない」と。「目の特性は人によって異なるのに、それを数種類のレンズだけで当てはめることはありえない、そんな商売はできない」、と言う方が多い印象です。レンズに限りません。例えば、とある医療用素材を使用したフレームも、老舗メガネ屋からすると「ありえない」という印象のようです。

 しかし、実際に低価格メガネの勢力を増しているところを見ると、消費者の率直な考えは「最低限必要な機能は、見たい物が見えること。それさえ満たしているなら安い方がいい。」ということなのでしょう。(少なくとも消費者のひとりである私自身の感想は、そう帰着せざるをえません。)

 もちろん、私は医学的な知識に乏しいので、この動きについては否定も肯定もできませんが、あくまで消費者ニーズには合致しているようです。
冒頭に戻ります。

 このように、経営理論・現場では、「商品数は多ければいいというものではない」、「スペックも高ければいいというものではない」のです。
「少ない方がいい、低スペックの方がいい」と言いたいわけではありません。
「多ければいいと決めつけてしまうことが危険だ」、ということです。

 非SPA型の方は、分業のメリットを武器に、製品・商品をアピールしてください。
ここまでSPA型ビジネスモデルの経営理論的な特徴を述べてきました。
最後に、SPAモデルを採らないメーカーや小売業者、卸売業者の方へのメッセージを僭越ながら書いておきたいと思います。

まずSPA型モデルが脅威であることに違いないということ。
その理由は、「量」の問題を克服した上で、消費者ニーズを捉えた商売ができているためです。そして、彼らは日々、改善活動を行っています。「いつかこけるだろう…」という淡い期待も禁物だと思います。

そこで、SPAモデルを採らない方は、「分業のメリット」を最大限に生かすことに活路を見出して欲しいと思います。
経済用語の「分業」には、自分が得意なことに集中する、という意味合いが含まれています。SPA型モデルの場合、川上から川下までを1社で担うため、会社として比較的苦手な分野もせざるをえないのです。

「時にはスペックを落とす選択肢もある」ことも踏まえ、一方で「今のスペックを低価格で届ける方法」がないか考えながら、自身の強みを発揮できる場を見つけるしかないと思います。「消費者は自分たちほどメガネのことを知らない」ということを忘れずに、いい商品を世の中に出していただけると、私も一消費者として嬉しい限りです。

そして、きちんと売り込むということを忘れないでください。
国内市場で安売りとは一線を画するのであれば、「消費者が高い値段で買わないといけない理由」をきちんと説明してください。おそらく、あるはずです。明快に伝えることが大きな一歩だと思います。

また、海外マーケットも魅力的だと思います。幸いにしてメガネ業界には世界を席巻する企業があまり多く存在しないように思います。電機や自動車業界からしてみると、「隣の芝は真っ青」かもしれません。かつ、世界には日本のメガネ技術を高く評価しているところが多いと聞きます。チャンスなのではないでしょうか。

「メーカー、卸、小売」連合が本気で海外に売り込みにいき、世界中で日本製メガネが活躍することを日がくることを私は願っております。


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